執筆担当
藤原 真人(Fujiwara Masato)
中小企業診断士
プロフィール
1977年生まれ 埼玉県出身
大学卒業後、大手精密機器メーカーに就職し、研究・開発や新規テーマ立案などを経験。
2017年に中小企業診断士資格を取得し独立。趣味は水泳。
前回までで5Sの基本について説明しました。最終回では、モノから業務の5Sに繋がる考え方と誤Sについて説明したいと思います。
<今回のテーマ>
1.モノから業務の5Sへ
2.誤S
本シリーズの第1回目でモノが整然と整理されていない会社は、ビジネスがうまくいっていないことが多いと説明しました。それはモノが整理されていないと業務プロセス全体も整理されていないことが多いからです。
ここではモノの5Sがどのように業務の5Sに繋がるのか説明をしたいと思います。
・整理
必要なモノと不要なモノとに分けて不要なモノは捨てることは、業務についても優先順位を付けて、優先順位の高い業務から着手することに繋がります。他にも、事業や製品機能についても、優先順位を付けて付加価値の低い機能は思い切って捨てる判断を養うことにも繋がると思います。
・整頓
ムダの少ない、効率的なモノの置き場所を決めることは、見える化や在庫管理に繋がります。配置が決まっていない状態では、そもそも何がどれくらいあるのかわからず、在庫や消費期限などの管理にも手間取ってしまうと思います。
・清掃
清掃中に異常や異変がないか確認することは、原因追及力の向上に繋がります。異変を見付けた場合には、「なぜ?」と考えると思います。このように「なぜ?」と考えて真の原因を追及することは、業務を進める上でも非常に重要となります。
・清潔
3Sをどのように職場で徹底していくかの標準化は、業務のバラツキを抑えるための業務の標準化を進めることに繋がります。担当者が変わると不具合が増えるのは、マニュアルなどが整備されておらず、業務が標準化されていないからです。
・躾
決めたルールを守ること、それを習慣化する躾は、ボトムアップで進めるようにすることで、改善活動や自主・自律型の人づくりへと繋げていきます。
5Sは単なるモノの整理・整頓だけではなく、より上位の業務の進め方の基本となる活動であることを説明しました。
しかし、実際には間違った5S(誤S)を実施している場合も散見されます。5Sに取組んでるけれど、なかなか成果が出ない方は以下の誤Sになっていないか見直してみてください。
・収納
捨てずにしまい込む
・整列
効率を考えずに形よく並べる
・掃除
きれいに見せるだけで原因を考えない
・再発
標準化せずに属人化する
・失心
やる気なし
以上、6回にわけて5Sの基本について説明してきました。5Sは、単に「片付け」に関することではなく、企業活動の原点であることを少しでもご理解頂ければ幸いです。
3S(整理・整頓・清掃)を実施したら、清潔な職場環境を維持する仕組み作りをしましょう。
<今回のテーマ>
1.清潔とは
2.清潔のポイント
3.躾とは
4.躾のポイント
これまで説明した整理・整頓・清掃の3S活動は対象がモノであったのですが、清潔・躾の活動はモノよりもヒトを対象とした活動となります。そして、清潔・躾は、3Sが実施された清潔な状態を維持・徹底するための活動です。
5Sの最後の躾は、決めたルールを守らせることなのですが、そのためにはルールを決めなくてはなりません。よって、そのルール作りが5Sの清潔となります。
よく5Sの参考書などを見ると、清潔は3S活動を「標準化」する活動と説明されています。これは、3Sをどのように職場で徹底していくかの標準化(ルール作り)だからなのです。
前回までの3Sの各項目の説明の中で、各活動のポイントを説明しました。清潔はそれらをルール化する活動となるため、ここでもう一度最低限ルール化すべき項目を説明したいと思います。
ルール1:定期的に整理を実施する
最低でも1年に1回は定期的に整理を行う日を決め、職場全体で整理を実施する。
ルール2:保管期限を決める
いつか使うかもしれないモノは必ず保管期限を決め、期限が来たら廃棄する。
ルール3:モノの住所を決める
あるべきモノがあるべき場所にあるようにモノの配置場所を必ず決める。
ルール4:清掃を実施する
できれば毎日、業務時間内に清掃を実施し、異常や異変がないかを確認する。
躾とは、決めたルールを守ること、それを習慣化することです。躾と言うと強制的なイメージがあるかもしれませんが、最低限守るべきルールを決めて、当たり前のことを当たり前にできるように習慣化する活動が躾となります。
躾と聞くと、社員をしつけることや強制的に守らせる印象を持つかもしれません。しかし、躾はモノではなくヒトを対象としているので、人材育成の一面も持っています。そのため、躾を行う上では以下のポイントを押さえることが重要です。
・トップダウンではなくボトムアップで進める
最初は最低限のルールを決めてトップダウンで強制的に守らせることは大切なのですが、5Sが進んだ職場であったとしても、改善すべき点が必ず出てきます。このような改善点は、実際の作業を行っている作業者でしかわからないことが多いものです。
よって、5Sを進める中で疑問や改善に繋がる提案などがあった場合には、なるべく耳を傾けて意見を取り入れ、ボトムアップを意識して全員で改善していくようにしましょう。
・改善活動に展開する
5S活動が進んで職場環境が整ってくると意識が変わり、社員一人ひとりに「キレイな職場を維持しよう」という気持ちが芽生えてきます。そして、もっとよくしたいと思う気持ちも出てくると思います。
そのように5Sがある程度進んできたならば、日々の業務の中で生じた改善点や気付きについて話し合う場を設けたり、改善点を定期的に出してもらう定例会などの仕組みを作るなどして、改善活動へと展開していくと良いでしょう。
整理・整頓を実施してモノの配置まで決まったら、次は職場を定期的にキレイに掃除しましょう。
<今回のテーマ>
1.清掃の重要性
2.清掃のポイント
清掃はその名前の通り、職場の中のゴミやホコリをキレイに掃除することなのですが、たかが掃除と思ってはいけません。清掃の中にはキレイにすること以外にも重要な役割が含まれています。それは、異常の早期発見とその発生源対策です。
清掃を行うときに、例えばモップを工作機や保冷庫などのスキマに入れて掃除をしたりします。このとき普段はあまり注意して見たりしないような場所をのぞき込んだりすることで、同時に異常がないか点検をしていることにもなるのです。
もしモップにホコリ以外の普段は見ないようなモノ(液体やネジなど)が付着するなどしていたら、誰でも疑問に思うはずです。そして、この液体はどこから来たのかと発生源や原因を探すはずです。
このように、普段から清掃をして通常の状態を確認しておくことで、いつもとは異なる状態に気付くことができ、異常の早期発見につながるのです。
このことがどれほど重要なのか、ハインリッヒの法則を紹介しておきます。ハインリッヒの法則とは、アメリカの損害保険会社に勤務していたハインリッヒが調査・発表したもので、1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するというものです。この法則は、1つの重大事故が起こる前に、軽微な事故や異常がいくつも発生しており、重大事故の防止のためには、軽微な事故や異常の段階で対処することがいかに重要かを説いているものです。
個人が経営するような小さなお店などでそれほど重大な事故など発生しないと考えるかもしれませんが、クレームなどを受けないために、工作機や保冷庫などの機器類の点検も兼ねて普段から清掃を実施しておくことは重要だと思います。
ここでは、清掃を実施する上で重要なポイントを説明します。
①清掃時間を業務時間として設定する
清掃を業務時間外に行うのではなく、業務の一環として業務時間内に実施しましょう。業務時間外だと全員が揃っていなかったり、早く帰るためにいい加減な清掃になってしまう可能性もあります。よって、業務内に時間を設けて実施するようにしましょう。
②チェック表を作成
重要な機器については、清掃したかや異常がないかを必ず定期的に確認するようにしましょう。
いつも使用している工作機などであれば使用している作業者が使用中に異常に気付くかもしれませんが、保冷庫などの特に人間が操作しなくても自動で動き続けている機器などは、故障するまで分からないことが多いと思います。
このような場合、持ち回りなどで担当を決めて清掃時間内に異常の有無を必ず確認するようにチェック表を作成するようにしましょう。
トイレなどの共用部分の清掃についても当番を決めて清掃するようにチェック表を作成しても良いかもしれません。
③清掃道具を揃える
清掃を行いキレイにすることは重要なのですが、あまり時間と労力が掛かるようでは効率化を考えましょう。例えば、機器と機器の間や下が狭くて掃除しにくいようであれば、狭いところでも届くモップなどの清掃道具を購入するなどしましょう。
清掃は業務時間内に全員で実施して習慣化し、同時に異常の早期発見に繋げるようにしましょう。甘えの体質は清掃を実施せずに汚れや小さな異常を放置するなどのごく小さなことから始まり、最終的に大きな事故やクレームに繋がるのです。
整理を実施して不要なモノを捨てたら、次は必要なモノを配置して整頓していきます。ここではムダの少ない、効率的なモノの置き場所を決めることが重要となります。
<今回のテーマ>
1.整頓とは
2.整頓の進め方
5Sでいう整頓とは、単に整然とモノを並べるのではなく、ムダの少ない、効率的なモノの置き場所を決めることです。その際には、「時間のムダ」を削減することが重要なポイントとなります。第1回で、代表的な「時間のムダ」として、モノを探す時間と必要なモノを取りに行く時間を挙げました。
整頓を実施することで、これら2つのムダな時間を削減するようにしましょう。
「モノを探すムダな時間」と「モノを取りに行くムダな時間」を削減するような整頓の方法について説明します。
・モノの住所を決める
モノを探すムダな時間を削減するためには、モノの住所を決めておくことが重要です。職場や部屋が乱雑になる原因の多くは、モノの住所が決まっていないために、とりあえずここに置いておく、使ったら元に戻さない(そもそも元の場所など決まっていない)ということが繰り返されるためです。
モノの住所が決まっているのに、元の場所に戻さないのは、5Sの躾の問題となりますが、モノの住所が決まっていないのは整頓の問題となります。探す時間を削減するために、まずモノの住所を必ず決めるようにしましょう。
・グループと使用頻度で住所を決める
モノの住所を決める際には、以下の順序で決めることが重要となります。
①作業グループごとに分ける
グループの分け方として、作業グループで分けることが通常です。例えば、工具、会計帳簿、調理器具などは使用時の作業内容が異なるので、一緒に置いてあることは少ないと思います。それは作業ごとにおおよその作業スペースが決まっており、その作業で使用するモノは自然と周辺に置くようになるからで、あまり意識しなくとも自然と分けてあることが多いと思います。
ただ、作業グループに分けたあと、必ず定位置を決めるようにしましょう。定位置が決まっていないと、作業スペース内でモノを探す時間が多少なりとも発生してしまいます。特に、例外的に別の場所で使用するために持ち出してそのまま置きっ放しにしてしまった場合には、その探し物を見付けるためにかなりの時間を費やすことになるでしょう。
②使用頻度の高いものは近くに配置する
作業グループごとに分けたら、キャビネットなどに使用頻度の高いモノから順に取り出しやすいように配置していきます。座って作業することが多いのであれば、低い段に使用頻度の高いモノを入れるようにします。
キャビネットの中に配置したら、中に何が入っているのかを引き出しにラベリングして、中に何が入っているのか、引き出しを開けなくともわかるようにしておきましょう。ラベリングは、お客様に見えない場所ならば、テープにペンで書いて貼り付ける程度で良いでしょう。
もし複数人で使用する場所ならば、今後の躾も考えて、引き出しの中の写真を撮っておき、適正な配置を分かりやすく明示するようにしても良いでしょう。
③モノの床の直置きはしない
整頓を進める上で必ず守ってほしいことがあります。それはモノを床に直置きしないことです。乱雑な職場になればなるほど床にモノが直置きで放置されています。床に直置きをして良いのはゴミ箱など最低限にしてください。
床にモノを直置きするのは、清掃の邪魔になりますし、そもそも清潔とは言えません。それに、つまづいて転倒する可能性もあるため、安全ではありません。
5Sの中で、ここまでの整理・整頓の2Sを実行するだけでも、職場は見違えるように生まれ変わると思います。次回からは、この状態を維持していくための取組みについて説明していきたいと思います。
今回は5Sで最初に実行する「整理」について説明をしたいと思います。5Sを進める上で最初の「整理」はとても重要で、この作業によって整頓などの後工程の品質が決まると言ってもいいでしょう。
<今回のテーマ>
1.整理とは
2.整理の進め方
5Sでいう「整理」とは、必要なモノと不要なモノとに分けて、不要なモノは捨てること。これに尽きます。しかし、言葉で言われてみれば簡単に聞こえるのですが、実際に必要なモノと不要なモノを線引きすることは難しいです。
例えば、今座っているデスクの上や引き出しの中にあるモノを「整理」して下さいと言われたとして、すぐに整理できる人は少ないでしょう。それは、必要なモノと不要なモノのどちらにも当てはまらない、いつか使うかもしれないモノや書類があるからです。
そして、このいつか使うかもしれないモノをどのように処理するかが整理を進める上でとても重要となってきます。
ここでは整理の進め方と、取り組む中で重要となるポイントについて説明します。
①定期的に整理を実施
最低でも1年に1回は定期的に整理を行う日を決めて、上司が率先して職場全体で取り組みます。
ここで重要なポイントは、以下の3つです。
・整理(5S)を行う日を決めておく
・上司が率先して取り組む
・職場全体で取り組む
片付けなどはモチベーションの上がらない仕事なので、やる日をあらかじめ決めておき、必ずその日に取り組むことが重要です。そして、必ず上司が率先して取り組むことです。片付けはできればやりたくない仕事なので、そのやりたくない仕事に上司が率先して取り組むことで、全員がやらざるを得ない状況にします。
また、職場全体で取り組むのは、一人では必要なモノか否かを判断できない場合があるからです。そのようなときにすぐに担当者や上司に声を掛けて必要か否かを判断してもらうために、なるべく職場全体で一緒に行います。
②いつか使うかもしれないモノは保管期限を明記
必要なモノ、いつか使うかもしれないモノ、不要なモノに分けたら、不要なモノは当然廃棄します。そして、それ以外はとっておくことになります。
ここで重要なポイントは以下です。
・いつか使うかもしれないモノには保管期限を決める
・保管期限が来たら思い切って廃棄する
必要なモノといつか使うかもしれないモノは明確に区別して保管する必要があります。それは、いつか使うかもしれなモノには、保管期限を設けるためです。
保管期限を明記した養生テープなどを”見えるように”貼り付けておきます。お客様が見える場所に保管せざるを得ない場合には、少し見栄えの良いシールなどを用いた方が良いかもしれませんが、いずれにしてもあまり時間を掛けないようにしましょう。
保管期限に関しては、保管場所のスペースや業種などにもよりますが、1年~数年程度で良いでしょう。つまり来年の整理を実施する日には廃棄するモノが出てきます。
保管期限が来たら今までずっと使わなかったのだから、これからも使わない可能性が高いので、思い切って捨てるようにしましょう。そうしないといつまでたっても5Sが進みません。
こうして、2年目以降はいつか使うかもしれないモノを廃棄する作業が中心となり、モノの5Sの作業は少しずつ減っていき、電子化や作業効率化などのより上位の作業改善へと進んでいくことになるのです。
5Sとは製品やサービスの品質に大きく影響するビジネス活動の基本となります。5Sはとても奥の深いものですが、今回のシリーズでは5Sの基本について解説します。
<今回のテーマ>
1.5Sとは
2.なぜ5Sが重要か
5Sとは整理・整頓・清掃・清潔・躾(しつけ)の頭文字を取った言葉で、一度は耳にしたことがある方が多いと思います。
・整理
必要なモノと不要なモノとに分けて、不要なモノは捨てる。
・整頓
ムダの少ない効率的なモノの置き場所を決める。
・清掃
ゴミや汚れがない環境を保ち、異常や異変がないか確認すること。
・清潔
整理・整頓・清掃を行い、清潔な職場環境を維持すること。
・躾(しつけ)
整理・整頓・清掃の決められたルールを守ること。
5Sの実行は主に工場で行われていますが、工場だけでなくオフィスや飲食店など、業種や企業規模に関係なく全てのビジネス活動にとって重要となります。
5Sと聞いて、なんとなく整理・整頓など単に「片付け」に関する言葉だと思っている方がいるかもしれませんが、5Sとは製品やサービスの品質に大きく影響するビジネス活動の基本となります。
そして、その片付けができていない乱雑な職場ほどあまり利益が出ていない企業が多く、逆に利益が出ておりビジネスがうまくいっている企業ほど職場が整然と片付いているものです。
片付けが出来ていない(=5Sができていない)場合、様々なムダが発生することになるので、どのようなムダが発生するのか以下に説明したいと思います。
・場所のムダ
不要なモノを置いているだけで、場所が必要になります。オフィスやお店を借りる時に、モノが多ければ多いほどより広いスペースが必要となるため、広い物件を借りるためのムダな家賃(コスト)が掛かります。
・時間のムダ
不要なモノを置いていると、必要なモノを探すのにムダな時間が掛かってしまいます。また、必要なモノがなるべく近くにないと、それを取りに行くのに余計な時間が掛かります。
・安全でないムダ
不要なモノが溢れていると、通路にモノを置いたりすることになり、移動の際に転倒する可能性も出てきます。また、作業スペースが十分に取れないことにより、無理な姿勢で作業をして体に負担が掛かることもあるかもしれません。
・不良品のムダ
片付けがされていないと、間違ったモノを誤って使用し、不良品の発生に繋がる可能性もあります。使用期限や消費期限がある材料の場合には、適切に管理ができていないと廃棄するムダが発生することもあります。
以上、片付けができていないだけで様々なムダが発生することになるので、5Sは重要だと理解して頂けたと思います。次回から5Sの進め方について説明をしたいと思います。