執筆担当
発知 健太郎(Kentaro Hotchi)
中小企業診断士
プロフィール
1976年生まれ 青梅市出身
大学卒業後、環境調査会社で営業を経験。高齢者・障害者福祉施設での現場経験を経て、児童福祉事業を目的とした知創株式会社を設立。青梅市内に児童福祉施設を3事業所運営すると共に、おうめ創業支援センターで相談員を担当している。
前回は、既存顧客維持の重要性について、「消費者購買行動モデル」「リレーションシップマーケティング」「80対20の法則」を見てきました。顧客との関係性構築が事業継続のカギを握ることがお分かりいただけたと思います。そして「起業を成功に導くポイント」最終回は、顧客との関係性を構築するために必要となるインターナル・マーケティングという考え方をお伝えします。
<今回のテーマ>
1.インターナル・マーケティングとは
コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメントよりその定義を確認します。
2.インターナル・マーケティングの手法
経営者と従業員のコミュニケーションについてお話しします。
マーケティングと聞くと、「お客様にいかに売るか」をイメージされる方が多いと思います。
実は、このマーケティングは、必ずしも外(お客様や市場)に向けてだけ行うものでなく、内(従業員や組織)にも向けて行う必要があるという考え方があります。この組織内に対するマーケティングをインターナル・マーケティングと言います。
☝インターナル・マーケティングとは、組織内の全員が自社のマーケティング・コンセプトとマーケティング目標を信じ、顧客価値の選択、提供、伝達への積極的に関与するよう仕向けることである。
☝社内のスタッフが素晴らしいサービスを提供する心構えができていないのに、そのようなサービスを顧客に約束するわけにはいかないからだ。
コトラー&ケラーのマーケティング・
マネジメントより引用
インターナル・マーケティングは「売れる仕組み」において最重要課題だと認識しなくてはなりません。どんなに立派なビジョンや優れたマーケティング戦略、売れそうな製品があっても、それが社内で理解、共有されていなければ、顧客のところまでその価値が届けられることは決してないからです。
インターナル・マーケティングの手法には様々なものがあります。社内情報共有システム、社内報、社内会議(全社会議、部内会議など)、社内メーリングリスト、表彰制度など。
しかし、インターナル・マーケティングにおける重要なポイントはどんなツールを使うかではなく、いかに経営者と従業員、従業員間のコミュニケーションを円滑にするかです。
同ミニ講座第5回で起業家の心構えとして「起業の目的を明確にしてください」「これから経営者となるにあたって大切にしたいポリシーや夢、事業の将来像をしっかり持ってください。」とお伝えしました。
そして目的=ポリシーや夢は、事業を行う上で「経営理念」「経営目標(ビジョン)」となります。
これらを外(お客様や市場)だけでなく内(従業員や組織)にも発信することこそ、インターナル・マーケティングの真髄ではないでしょうか。
ぜひ起業家(経営者)は、会社の夢(ビジョン)を従業員の皆さまにしっかりと伝え、全員が同じビジョンを共有できる組織を作ってください。
それが従業員の皆さまのやりがい、働き甲斐になり、従業員満足が顧客満足につながることでしょう。
経営を継続するためには、利益が必要であり、利益を上げるためには売上が必要であることを前回お伝えしました。そして、利益(売上)を継続させるためには、一度掴んだお客様を離さない(維持する)ことが重要です。
今回は顧客を維持するための考え方をお話しします。
<今回のテーマ>
1.消費者購買行動モデルの変化
消費者が、その商品(サービス)の存在を知ってから購買に至るまでの心理的プロセスをモデル化したものをご紹介します。
2.既存顧客の維持が重要
リレーションシップマーケティング、及び80対20の法則という考え方をご紹介します。
これまで、消費者が購買に至るまでAIDMAモデルという心理的プロセスをたどると言われてきました。
1.Attention(注目):
テレビCMや雑誌などから商品の存在を「認知」し
2.Interest(興味):
その商品を自分に関係あるものとして「興味」を示し
3.Desire(欲求):
その商品が自分の役に立つモノとして「欲しい」と思い4.Memory(記憶):
その商品の販売実績を知ることで、それが「動機」へとつながり
5.Action(購買):
販売店へ行って商品を購入する
インターネットの普及により、消費者の購買までの心理的プロセスにも変化が表れました。そこで1995年に電通によって提唱されたのがAISASモデルです。
AIDMAモデルとの違いは
「Search(検索)」と「Share(共有)」です。
インターネットの検索エンジンやSNSの急速な普及により、一瞬で情報を取得可能となり、消費者が発信する口コミ情報が、他の消費者の購買行動に大きく影響を及ぼすようになったのです。
そのためごく一部で起きた顧客サービスの優劣が、想像以上に大きな評判を形成することも起こり得ます。
そんな背景から昨今、注目されているのが「リレーションシップマーケティング(関係性マーケティング)」です。顧客との良好な関係を、長期に渡り継続することを目的とするマーケティング手法です。
市場成熟化、消費者ニーズ多様化、流通における大規模小売業者の台頭により、インタラクション(双方向相互作用)による社会的コミュニケーションの必要性が増大しました。この動向は、お客様との距離が大企業に比べて近い中小事業者にとって、追い風にもなりうる環境変化です。
リレーションシップ構築の重要性を提唱するもう一つの理由に「80対20の法則」という考え方もあります。「20%の顧客で80%の売上高を構成することが多い」という考え方です。
つまり、20%の既存優良顧客との関係性(リレーションシップ)を構築できれば、事業を継続できる可能性が高まるということです。
多大なコストや労力の割に成果が見えにくい新規顧客の開拓より、既存顧客維持の重要性がお分かりいただけたと思います。
前回、企業を存続発展させるためには、利益を上げ続ける必要があり、利益を上げ続けるためには、売上を増加させることが必要であることをお伝えしました。今回は、売上向上にフォーカスしたいと思います。
<今回のテーマ>
1.売上の構造
売上の構造を掘り下げて分解します。
2.客単価の構造
売上向上の一つの要素である客単価の構造と具体的な施策を見ていきます。
売上向上には客数アップ、客単価アップのどちらか、もしくは両方が必要です。
そして客数は、顧客数と来店頻度に分解され、顧客数アップのためには、既存顧客の来店頻度を向上させる、新規顧客を獲得する、来店いただいた顧客に固定客になっていただく、流出顧客を極力少なくすることが必要です。
一方の客単価は、買上点数と商品単価に分解され、お客様一人当たりの買い上げ点数を増やすか、1点当たりの商品単価を上げることが必要になります。
どうですか?
ただやみくもに「売上向上!」を目標に掲げる前に、まずはどこを向上させたいのか、もしくはどこに課題があるから売上が上がっていないのか、考えてみましょう。
そして、たとえば「買上点数を増やすことにより客単価アップを図る」のように具体的に売上向上目標を設定してください。
では、客単価(1客当たり売上高)はどのような構造になっているのでしょうか。小売店の事例を用いて具体的な施策を見ていきましょう。
客単価(1客当たり売上高)=導線長×立寄率×視認率×買上率×買上個数×商品単価
・導線長:入店したお客様がどれくらい店舗内を歩いていただけるか?
導線長を長くするには・・・
⇒回遊性を高めるマグネット(広告品、特売、季節商品等)を設置する
⇒居心地の良い売り場作りが重要(通路幅、活気等)
・立寄率:来店客の中で、立ち止まって(立寄って)商品を購入検討した人の割合
⇒ディスプレイ
⇒魅力的な壁面
⇒広い導入部
・視認率:お客様にどれだけ見てもらえるか?
⇒前出し陳列、品出し
・買上率:入店したお客様の中でどれだけお客様に買っていただけるか
買上率アップの方法
⇒手に取ってもらう、戻しやすいことも大事
⇒POPで付加価値を訴求する、テレビCM上映など
・買上個数
買上個数アップの方法
⇒パック販売、店内かご用意、レジでお預かりの声掛け
売上の構造を分析することが、より具体的な施策につながることをご理解いただけたと思います。
今回から「経営とは」と題し、「企業を存続させるためには何が必要なのか」について解説していきます。
<今回のテーマ>
1.経営とは利益を上げ続けること
少し強引な言い方になりますが、企業を存続させるためには、ずばり「利益」が必要です。経営の定義と照らし合わせて見ていきます。
2.収益モデルの基本
利益はどのように生まれるのでしょうか?計算式から利益の構造を分解します。
利益を上げ続けるための3つのアプローチを見ていきます。
利益を上げ続けるためには
① 売上を増加させる
② 原価を低減させる
③ 回転を増加させる
ことが必要で、
その中でも、①売上を増加させるが特に重要です。
言うまでもありませんが、計算式からも分かる通り、売上がなければ、いくら原価を低減させたとしても、回転を増加させたとしても利益は上がりません。
まずは、しっかり売上を向上させることを考えましょう。
売上がしっかり上がっているのに、利益が出ていない場合は原価の低減(コストダウン)を考えるべきです。
しかし、安易なコストダウンは、品質の低下による売上の減少につながることも考えられますので、慎重に行いましょう。
前回に引き続き、職業を決める際の考え方についてお話しします。「何を職業として起業するか②」と題し、以下について学んでいきましょう!
<今回のテーマ>
3.市場性とは?
4.市場の見極め方
「世の中の困りごとの解決」
「好きで得意なこと」
この2つが合わさるところ(集合の和の部分)でビジネスを考えることが大切であることを前回学びました。
実はこれ以外にもビジネスをする上で必要な要素があります。それは・・・
市場性と収益性です。
市場性とは
これから始めようとするビジネスを、利用するかもしれないお客様が、どれくらいの数いるかということです。いくら素晴らしいビジネスを始めても、それを利用したいと思う人がいないか、またはきわめて少なければ、ビジネスとして軌道に乗せることは難しいでしょう。
もちろん少ないよりも、多い方がいいのですが、必ずしも多ければいいとは限りません。市場が大きければ、それだけ魅力的であることに違いはないのですが、そこでは競争が激しくなります。
製品の寿命を示した「プロダクト・ライフサイクル」を掲載しておきますので、ご参考ください。
あなたは何を職業として、起業しますか?
・これまでの経験を活かして起業する人
・これまでとは、まったく違う別の業界で起業する人
・本業とは別に、趣味や特技で一旗あげたい人
職業が既に決まっている方もいれば、まだはっきりと決まっていない方もいると思います。
今回から数回に分けて、職業を決める際の考え方を中心
にお話しします。
<今回のテーマ>
1.ニーズ志向の重要性
2.自分の「好きで得意な事」を選ぶ
「今、世の中の人々はどんなことに関心があるのだろう?」
「どんなことに困っているのだろう?」
「何を望んでいるのだろう?」
事業化するにあたって、最も重要な視点は、「ニーズ志向」です。
「自己満足」ではいけないということです。
ビジネスとは、一種の経済活動ですから、仕組みは非常にシンプルです。
ビジネスの仕組みは『世の中の人々が求めている理想(=ニーズ)と、現実のギャップに対して、自社の製品・サービスを提供することでそのギャップを埋め、その見返りとして対価を得る(=儲ける)こと』であるといえます。
お客様は、何らかの便益を得て、その対価を支払います。
「世の中の人が困っていることを解決する、または世の中の人が望んでいることを満足される」ことがビジネスの基本です。
もう一つ大事なことは、自分の「好きで得意な事」を選ぶことです。なぜならば、好きでないと続けられないからです。
事業を開始すれば、多かれ少なかれ様々な困難にも遭遇するでしょう。その時に自分の価値観(生き方)と合っていなければ、せっかく始めた事業を投げ出してしまうことにもなりかねません。
起業とは「生き方を変える」ことです。
そして事業を開始すれば、あなたは四六時中、その事業のことを考えることになります。あなたの身体の一部のようなものです。
もう一度、あなた自身に問いかけてみてください。
「最後まで最初に掲げた理念を実現するための信念を貫くことができるか?」
「全ての責任は自分にあることを理解して、全力で事業に専念することができるか?」
ここまでの話を整理すると、下図のようになります。