執筆担当
酒井 恒(Hisashi Sakai)
中小企業診断士
プロフィール
1971年生まれ 福岡県北九州市出身
大学卒業後、印刷紙器業、人材広告業、経営コンサルタント業などを経験。前職では、安全衛生関連講習の講師を全国各地で年間100日以上こなす。おうめ創業支援センターでは金曜日に相談員を担当している。
前回の講義では、労働基準法(全般)について、確認しました。今回は労働安全衛生法について、確認していきたいと思います。
<今回のテーマ>
1.労働安全衛生法とは
労働安全衛生法の目的を確認します。
2.小規模事業者が取り組む労働安全
小規模事業者が取り組むべき労働安全について、具体的な流れを確認します。
労働安全衛生法の目的は、『この法律は、労働基準法と相まって、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進する』ことです。
法律の条文なので、分かりにくくなっていますが、目的を一言で言うならば、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境をつくり労働災害を未然に防ぐということです。
日本の労働災害の状況を下記のグラフから確認しましょう。
死亡災害、重症災害は長期的に見て、減ってきております。ただ、最近の傾向として、建設業や製造業では労働災害が減っているのですが、サービス業を中心とする第3次産業が増加傾向にあります。
第3次産業に属する業種の主なものとしてあげられるのは、小売業、社会福祉施設、飲食業で多くの小規模企業になります。以上のことからこれから創業される方は、労働災害にも気を付けなければなりません。
小規模事業者が取り組むべき労働安全について、具体的な流れを下記で確認します。
「今まで労働災害が起こったことがないから、安全衛生管理なんて必要ない」などと考えてはいけません。今まで労働災害が起こったことがなくても、明日起こるかもしれません。大きな災害が起こった後に、「やっぱりきちんと対策しておけばよかった」と思っても、遅いのです。
事業場のトップが安全衛生管理の必要性を認識し、活動を推進しましょう。
下記に具体的な流れを示します。
1.基本方針の策定
労働災害防止のためには、事業場が一丸となって取り組むことが重要です。まずは、事業場の安全衛生の基本方針を策定し、従業員が常にそれを意識して行動できるようにしましょう。
2.基本方針の周知
基本方針を策定したら、パートタイマーなどを含めたすべての従業員に伝えましょう。朝礼での唱和、事業場内への掲示、従業員教育での学習などの方法があります。
3.トップが率先して行動
基本方針を策定したり、社長や工場長が安全衛生の重要性を説明しても、行動が伴わなければ従業員には伝わらないかもしれません。社長や工場長が現場に出向き、安全衛生を指導するなど、トップが率先して行動することも重要です。
上記の内容をスムーズに実践するには、良好な人間関係を構築し、良い職場環境をつくる、いわゆる『コミュニケーション』が重要です。『コミュニケーション』を円滑にするには下記の取組があります。
1.出勤時、退勤時の挨拶運動
2.朝礼でのひとこと発言
3.管理者による声掛け、面談
『コミュニケーション』は、安全衛生以外でも生産性の向上や品質の改善などありとあらゆる場面で重要になるものですので、事業場の中で円滑になるよう取り組んでいきましょう
前回の講義では、労働基準法の賃金・解雇について、確認しました。今回は妊産婦等、就業規則について、確認していきたいと思います。
<今回のテーマ>
1.妊産婦等とは
少子高齢化が急速に進む日本。女性労働者が仕事を継続できる仕組みが大切です。
2.就業規則とは
「会社の憲法」ともいわれる就業規則について学びます。
妊産婦等とは、妊娠中の女性及び産後1 年を経過しない女性のことをいいます。
現在日本は少子高齢化が急速に進んでいます。政府としてもこの少子高齢化に歯止めをかけたいために、女性労働者が子供を産み、仕事も継続できる仕組みを急ピッチでつくっています。また、ここ30年で共働き世帯が増えていることもグラフからわかります。
妊産婦の時間外労働や深夜労働(22:00~5:00)について、特に規制はしていないのですが、妊産婦が時間外労働や深夜労働をさせないでほしいと請求があった場合は、それらの労働をさせてはなりません。
また、妊産婦が産前6週(多胎妊娠14週)に差し掛かり、休業請求した場合は、事業者は休みを与えなければなりません。
産後原則8週間は休みを与えなければなりません。ただ、例外として産後6週経過しその労働者が仕事復帰をしたい旨の請求があり、医師が仕事内容を鑑み復帰しても良いことを認めれば仕事復帰することができます。
就業規則とは、会社や労働者が守るべきルールを定めたもので、よく「会社の憲法」や「従業員との契約書」などといわれます。
就業規則はどのような事業場において必要となるのでしょうか。具体的には、事業場に10人以上の労働者がいる場合、使用者(会社)側が作成しなければなりません。ただ、10人未満の事業場では就業規則はなくてよいのかというとそうではありません。
就業規則は会社や労働者が守るべきルールで、3つの記載事項があります。就業規則がなければみなが好き勝手なことをしてしまい、会社が崩壊しかねません。
また、近年個別労使間での紛争が毎年増えています。
この紛争についても就業規則がある場合とない場合では手間や処理コストが大きく変わってきますので、事業者である以上は会社のルールを事前に決定し、トラブルのない会社にするのが賢明です。
前回の講義では、労働基準法の割増賃金、年次有給休暇について、確認しました。今回は賃金、解雇について、確認していきたいと思います。
<今回のテーマ>
1.賃金とは
使用者が守るべき4つの原則を確認しましょう
2.解雇とは
解雇には様々な制限があることを確認しましょう
賃金とは、一言でいうと給料のことです。使用者と労働者との間で労働契約を結ぶことで、使用者は労働者に賃金を支払う義務が発生し、一方で、労働者は使用者から賃金を受け取る権利が発生します。
この賃金について、使用者は4つの守らなければならない原則があります。その4つを下記にあげます。
(1)通貨払いの原則
賃金は原則通貨で支払しなければいけません。ただし、例外として、労働者から個別に同意があれば、銀行口座への振り込みは可能になります。
(2)直接払いの原則
賃金はその労働者に直接支払わなければなりません。この原則については、例外はありません。
【Q】高校生のアルバイト代を未成年だからという理由で、その親に支払った。
【A】法令違反になります。未成年であっても必ずその労働者本人に支払わなければなりません。
(3)全額払いの原則
賃金は全額支払わなければなりません。使用者側が一方的に控除することは出来ません。例外として、税金や社会保険料などの法令に別段の定めがある場合や労使協定で事前に定めをすれば控除することができます。
(4)毎月1回以上、一定期日払いの原則
賃金は毎月1回以上、一定の期日に支払わなければなりません。
【Q】給料日を毎月第4週目の金曜日とした。
【A】法令違反になります。賃金は毎月一定期日に支払わなければなりません。具体的に言うと、毎月25日といった特定日にしなければなりません。
解雇とは、使用者と労働者との間で交わした労働契約を使用者側の都合で一方的に解除することを言います。この解雇は、労働者にとって「生活の糧を失う」という重大な問題になります。
労働者を解雇する手続として、30 日前に予告するか、予告手当として30 日分以上の平均賃金を支払うかのどちらかが必要になります。予告の日数が30 日に満たない場合には、その不足日数分の平均賃金を、「解雇予告手当」として支払う必要があります。下記に「解雇予告」と「解雇予告手当」の組合せの表をあげます。
この解雇はすべての労働者に実施できる制度ではありません。労働者の中には解雇の制限がある人もいます。具体的には下記の人たちです。
①業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のため休業する期間及びその後30 日間
②産前産後の休業期間及びその後30 日間
ただ、上記の人たちも天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合には解雇が可能になります。
この解雇は、景気が悪くなったからすぐにできるものではありません。手続きは非常に煩雑なものになりますので、どんな状況でも解雇を行わなくてもよい企業経営を実施したいですね。
前回の講義では、労働基準法の労働時間、休憩について、確認しました。今回は割増賃金、年次有給休暇、について、確認していきたいと思います。
<今回のテーマ>
1.割増賃金とは
時間外、休日、深夜、それぞれに割増率が異なります
2.年次有給休暇とは
有給休暇のルールについて把握しましょう
割増賃金とは、使用者が労働者に時間外労働(残業)、休日労働、深夜労働(22時~5時まで)を行わせた場合に支払わなければならない賃金をいいます。
それぞれの具体的な割増率は下記になります。
使用者は、それぞれの割増賃金に該当する労働を行わせた場合、1時間あたりの賃金に各割増率をかけた賃金を支払わなければなりません。
【例】
下記の企業に勤めている労働者がいます。
就業時間:9~18時 昼休憩:1時間
時給:1,000円
それぞれの労働を行った場合の割増賃金を確認しましょう。
残業した場合(1時間:18~19時)
1,000円×1.25×1時間=1,250円
深夜労働をした場合(1時間:22~23時)
1,000円×1.5×1時間=1,500円
※8時間を超えなおかつ深夜に及んだ場合は、2割
5分+2割5分の5割になります。
休日労働をした場合(8時間行った場合)
1,000円×1.35×8時間=10,800円
※休日労働が8時間を超えても時間外労働の割増は加算されませんが、深夜に及んだ場合は深夜労働の割増2割5分の計5割の加算がなされます。
年次有給休暇とは、労働者の休暇日のうち、使用者(雇用主)から賃金が支払われる有給の休暇日のことです。労働者の心身のリフレッシュを図ることを目的にしています。
では年次有給休暇を与える要件、日数を確認したいと思います。雇い入れの日から6か月間経過し、かつその期間の全労働日の8割以上出勤することが要件になります。それ以降は1年を経過し、その1年で8割以上出勤することが要件となります。具体的には下記の表の通りになります。
【Q】この年次有給休暇は、正社員にだけ認められている制度でしょうか?
【A】いいえ、非正規雇用労働者、短時間労働者にも、当然認められている制度になります。日数についてはその労働者の労働日数に比例して与えられることになります。
有給休暇は労働者に認められた権利なので、使用する理由など細かな条件を付けることはできません。
一方、会社も労働者に指定された日に休まれると、通常の業務が回らない場合は、別の日に変更することもできます。
ただ、このような権利や義務を振りかざすと会社内の人間関係や雰囲気も悪くなってしまいます。
なので、有給休暇の使い方について、使用者と労働者との間でコミュニケーションをとり、運用のルールなどをつくることでお互いが気持ち良く過ごせます。また、うまく使うことで生産性の高まる制度となるのではないでしょうか。
前回の講義では人を雇い入れる際に重要となる労働基準法の概要について、確認しました。今回は具体的な内容について、確認していきたいと思います。第2回目のテーマは下記になります。
<今回のテーマ>
1.労働時間とは
様々な労働時間、その定義を知っておきましょう
2.休憩とは
休憩の考え方について理解しましょう
労働時間とは、使用者の指揮命令の下労働に服し、役務を提供する時間をいいます。
労働時間には、法定労働時間と所定労働時間があります。法定労働時間は労働基準法という法律によって定められた労働時間。一方の所定労働時間は事業所で定められた労働時間になります。
法定労働時間は1日8時間、1週40時間でともに休憩時間は含みません。所定労働時間は各企業ごとに定めることができるのですが、法定労働時間を超えることは出来ません。
みなさんに質問です。
Q:法定労働時間が1日8時間なので、どんな場合でも使用者は労働者を8時間を超えて労働させることはできないのでしょうか???
A:×です。働いた経験のある方だと何となくイメージがわくと思いますが、忙しいときは8時間を超えて労働することはできます。いわゆる「残業」です。
ただ、使用者は労働者に残業させた場合、2割5分以上の割増賃金を支払わなければなりません。
そして、残業する場合には事前に使用者と労働者等との間で協定を結ぶ必要があります。
現在、「働き方改革」、「長時間労働への規制」ということが叫ばれているように残業は減る方向に向かっています。そのような流れから事業者は、労働者を雇い入れる場合、残業をさせないように仕事を組み立て、割振るという効率性が一層求められています。
また、ある企業が労働者の働きたい企業の条件について調査したところ、『労働時間の融通が利く』が第2位となっていました。労働者の希望する労働時間との調整が今後の人事戦略にも効果があります。
休憩とは、労働を免除された時間をいいます。
6時間を超える労働をさせた場合は45分、8時間を超える労働をさせた場合は60分の休憩時間を与えなければなりません。また、休憩は労働と労働の途中で与えなければなりません。
以下のケースの場合、みなさんはどう対処しなければならないでしょうか?
<ケース>
ある労働者の所定労働時間が7時間だったので、事業者である皆さんはその労働者に労働時間の途中で45分間の休憩を与えていました。ところがその日は仕事量が多く、2時間の残業をその労働者にお願いしました。
<対処>
結果的に1日の労働時間が9時間となり、8時間を超えてしまいます。8時間を超える場合は、60分の休憩を取らせないといけないのですが、45分しか与えていないため、2時間の残業のどこか途中で残りの15分の休憩を与えることで、法令に違反のない適正な対処となります。
休憩時間は労働者が労働を免除された時間で、自由に使える時間なので、仕事の依頼をしてしまうとそれは休憩になりません。
例えば、電話が鳴ったら取りつないでもらうことをお願いすると、それは労働時間になります。ただ、労働者が自分の意思で取りつないでくれる場合は、休憩時間になります。
以上のことから労働者との良好な関係が、トラブルを未然に防ぐ最善の策となります。
事業を開始するとき、人を雇い入れず1人で行う場合と、人を雇い入れて行う場合があります。人を雇い入れる場合には、ある一定の法律に従う必要があります。その法律を総称して『労働法』といいます。労働法という法律があるわけではなく労働基準法、労働安全衛生法、労働組合法、男女雇用機会均等法などを総称したものになります。この講座では、労働法の中でも重要なものをピックアップして確認したいと思います。
<今回のテーマ>
1.労働法で重要な法律
労働に関する法律を総称した『労働法』の概要を解説します
2.労働基準法が出来た背景
労働の基本となる法律「労働基準法」について解説します
労働法の保護を受ける「労働者」の対象は、雇われて働いている人となり、正社員だけでなく、派遣社員、契約社員、パートやアルバイトでも、「労働者」としての適用を受けます 。一方、事業主は基本的に労働法の保護を受けません。
「労働法」で重要な法律は労働基準法になります。労働基準法の目的は、労働者を保護することにあります。「労働法」にはその他にもいろいろとあり、下記のようなものがあります。
・労働安全衛生法
・労働組合法
・労働契約法
・男女雇用機会均等法
その他、労働者が仕事中に不幸にして事故に遭遇しけがをしたときに面倒を見てくれる労働者災害補償保険法や不況のあおりを食らって失業した時に面倒を見てくれる雇用保険法があります。
この労働者災害補償保険法と雇用保険法を総称して労働保険と言います。
また、労働災害以外で病気やけがをしたときに面倒を見てくれる健康保険法があります。老後の面倒を見てくれるものに国民年金がありますが、それだけだと生活が十分とは言えませんので、それをカバーしてくれるものに厚生年金法があります。
健康保険と厚生年金を総称したものを社会保険といいます。
労働基準法とは労働するにあたり基本となる法律で、労働とは仕事をすることです。仕事をするとは、労働者と使用者との間で労働契約を結ぶことになります。
この労働契約を結ぶと、労働者は使用者から仕事の命令を受けてその結果として役務を提供することになります。その代わりに労働者は給料をもらう、使用者は給料を払うことになる、要は両者に権利と義務が発生します。
このことを法律用語で、有償双務契約と呼んだりします。この労働契約を結ぶ際、よくあるケースとして、使用者側が有利に、労働者側不利にたたされます。
具体的に、不況の時期をイメージしてください。以下のような面接場面が考えられます。
労働者
何社も面接を受けても採用されず、なかなか仕事が見つからないんです。
経営者
そっか~そんなに仕事がしたいのなら、ウチで雇ってあげるよ。でもね、労働条件として、労働時間は1日13時間、時給は300円、月の休日は1日でどうだい。
労働者
がががんばりますぅ、、、、、、
そんなことがないように、労働者が仕事をする際には、労働条件の最低基準をつくり、労働者を保護するために労働基準法がつくられました。この労働基準法は日本国内にあるすべての事業場、労働者に適用され、違反をすると罰則をもって処罰されます。