起業を成功に導くポイント

執筆担当

発知 健太郎(Kentaro Hotchi) 

中小企業診断士

 

プロフィール

1976年生まれ 青梅市出身
大学卒業後、環境調査会社で営業を経験。高齢者・障害者福祉施設での現場経験を経て、児童福祉事業を目的とした知創株式会社を設立。青梅市内に児童福祉施設を3事業所運営すると共に、おうめ創業支援センターで相談員を担当している。

 



第6回 起業家の心構えや前提条件②

前回に引き続き「起業家の心構えや前提条件」を見ていきます。

<今回のテーマ>

1.他社との差別化ポイントがある
2.自己資金がある
3.家族や周囲の理解を得ている


1.他社との差別化ポイントがある

顧客のニーズが多様化し、競合も多い状況では、たとえどんなに素晴らしい製品・サービスを作ったとしても、そのままではなかなか売り続けることはできません。

 

どの市場でも多かれ少なかれライバルが存在しますので、顧客からみて、その製品・サービスが同等であれば、より安い方を選択します。


このように製品・サービスが同質化している市場では、価格競争が激化し、企業の収益性が低下します。

その市場で生き残るためには、「他社との差別化ポイントがある」ことが前提条件となります。

他社との差別化ポイントを見つける一番の方法は、「競合相手やその地域の特徴を知る」ことです。


そのためには、
・出店予定地の街を歩いて競合調   査をする
・その街の風土(地域性)を知る
・ウェブ検索で、出来る限りその地域の情報を集める
ことが必要です

2.自己資金がある

 

たとえ素晴らしいビジネスプランがあっても、資金が無ければそれを実現させることは出来ません。

どんな事業を始めるにせよ、多かれ少なかれ資金が必要です。

 

全額自己資金で事業を始めることが出来ればそれに越したことはありませんが、事業によっては融資が必要になるケースもあるでしょう。

 

融資により資金を調達する場合でも自己資金は必要です。

 

一般的に、融資額は自己資金の1.5倍~2倍と言われていますので、1,000万円の融資を希望される場合は、最低でも500万円の自己資金が必要になります。

 

起業を思い立ったら、少し遊びを控えて、できるだけお金を貯める努力をしてくださいね。

3.家族や周囲の理解を得ている

これから多くの人の理解を得て事業をするのですから、最も身近なご家族の同意なしに起業するのは困難です。

 

それよりも、ご家族の同意すら得られないような人が、周囲(取引先、顧客、従業員、地域住民、金融機関など)の理解を得ることは難しいでしょう。

 

起業家であるあなたは、事業を開始するにあたって、その事業内容を様々は場面で、周囲にプレゼンテーションする機会があります。
その予行練習のつもりで、時間をかけてご家族に説明するよう努めてください。

ご家族は、あなたを応援したい気持ちがある反面、多くの不安を抱くはずです。


ご家族に対して何の前触れもなく唐突に「会社を辞めて起業する!」と宣言しても、にわかにその不安を払しょくすることは困難です。たとえ時間をかけてでも、ご家族からの理解を得られるよう、一歩ずつ前に進むことです。



第5回 起業家の心構えや前提条件①

サラリーマンからの独立、定年退職後の起業、子育てがひと段落着いたから小さなお店を持ちたいなど、起業のスタイルは様々ですが、皆さん「始めたからには継続させたい」と思っているでしょう。しかし現実には厳しく、起業して3年後に生き残れるのは4割、10年後には1割しか生き残れないと言われています。

<今回のテーマ>

一度立ち上げた会社は、従業員・取引先・お客様をはじめ、応援してくれた人々のためにも継続しなければなりません。生き残れる会社になるために、事業を始める前に、起業家としての心構えや前提条件をしっかりと考えておきましょう。

1.目的を明確にする

2.強みを整理する

3.ターゲットを明確にする


1.目的を明確にする

 

起業家が、まず一番初めに考えなければならないことは、「起業の動機、すなわち想いをしっかり抱いているか」です。起業は手段であって目的ではありません。

 

これから経営者となるにあたって大切にしたいポリシーや夢、事業の将来像をしっかり持ってください。

 

「何のために起業したいのですか?」
「起業によって人生で何を実現したいのですか?」

これらが明確でないと、たとえ起業できたとしても、長くは続きません。

 

もう一度、ご自身に問いかけ、答えをしっかり抱いてから起業に踏み切ってください。

 

 

 

2.強みを整理する

 

他には負けないあなただけの技術、資格、性格、人的ネットワークがこれからの事業活動の強みとなります。

逆に言えば、全く経験も技術もない領域であれば失敗するリスクも高くなります。

 

また、もしあなたが金融機関からの借入を考えている場合、借入審査時、あなたのキャリアや持っている「強み」を見られます。

 

・あなたの持つ経験やノウハウは?
・あなたに協力してくれる仲間は?
・あなたの弱みを補ってくれる人(パートナー)やモノは?
・あなたの事業に活かせるネットワークは?
・あなたの事業に活かせる人脈は?

 

事業選定の判断材料としても、対外的なアピール材料としても、今までの自分のキャリアを振り返って整理しておきましょう。

3.ターゲットを明確にする

仮にあなたが、誰にも負けない技術やまだ世の中にないアイデアを持っていたとしても、それをお客様が望んでいなければ、事業としては成り立ちません。

 

ターゲットとなるお客様が求めていること、悩んでいることを把握することがとても大事です。

 

あなたの事業では、「どんな問題解決ができるか?」という視点で考えることによりターゲットが絞られてきます。

ターゲットが絞られることで、提供すべき商品・サービスが見えてきます。

 

自信作のおいしいメニューがあっても、お客様が求めているものでなければ売れませんし、少数派が好む味では集客は期待できません。また、ターゲットを絞ることは、プロモーション(宣伝活動)を効果的に行うためにも重要です。



第4回 起業後の所得と満足度

今回は、2014年中小企業白書のデータより、起業後の所得や起業家の満足度を見ていきましょう。

<今回のテーマ>

1.起業後の所得
起業家はどのくらいの所得を稼いでいるのでしょうか。
会社員から独立する方必見です。

2.起業家の満足度
お金以外の大事な要素である「仕事のやりがい・生きがい」

すなわちライフワークの満足度について、統計データを基に見ていきます。


1.起業後の所得

2014年中小企業白書のデータより、起業家の7割を占める個人事業主の所得について見ていきましょう。

 

 

『個人所得は年々減少し、直近の2012年では100万円未満が3割超、200万円未満が5割超を占め、300万円未満になると実に7割を占めることが分かった。このように、自営業主の所得が年々減少傾向にあり、このことが、起業して自営業主になりたいと考える起業希望者の数が減少していることの一因となっていると推察される。』としています。

 

いかがですか?
皆さまが想定している社長像より厳しい数字に見えるかも知れません。


ちなみに2016年の会社員の平均年収は、442万円と言われていますので、単純比較は出来ないものの、データからは個人事業主より会社員の方が稼いでいることになります。

2.起業家の満足度

事業は投資活動ですから、お金やノウハウといった資源を使って(投資して)、利益(所得・リターン)を得ることが目的です。しかしそれだけでしょうか?

 

「仕事のやりがい・生きがい」すなわちライフワークの充実も大事な要素ですよね。

 

同じ2014年中小企業白書では、起業家が起業したことに満足しているか、後悔していないかについてアンケート調査を行っています。

 

 

「総合的満足度」については、6割弱が「大変満足している」、「満足している」と回答し、「不満である」、「大変不満である」と回答した割合は1割以下となっています。

 

確かにお金は事業活動において大事な要素ですが、多くの起業家は「自分の裁量で、自由に時間を使って、自己実現を図る」ことを起業の動機としています。

 

この想い(ビジョン・志)が強い起業家こそ、事業に成功し、結果として多くの利益(所得・リターン)を得ることができるのだと思います。

 



第3回 起業に必要な経営知識

前回は、起業に必要な『お金』と『経営知識・ノウハウ』のうち、『お金』について、2014年中小企業白書の統計データを基に解説しました。今回は、『経営知識』の習得方法を中心に解説します。

<今回のテーマ>

1.『経営知識』って何ですか?
2014年中小企業白書のデータを見ながら、起業時の課題である経営知識について解説します。

2.経営知識の習得方法
経営知識の習得方法として、お勧めしたい創業セミナーを紹介いたします。


1.『経営知識』って何ですか?

「起業には『経営知識』が必要です」と言われても、何をどのようにすればいいかピンときませんね。

しかし2014年中小企業白書の「起業時に直面した課題」を見ると、下表の通り、「経営知識一般(財務・会計を含む)の習得」と回答した割合がダントツ1位になっています。

 

 

では、経営知識とは何でしょうか?
私たちは中小企業診断士という資格を持っていますが、この資格は、中小企業経営支援における診断や助言をするための国家資格です。


試験科目には以下の7つがあります。
「経済学、経済政策」「財務・会計」「企業経営理論」「運営管理」「経営法務」「経営情報システム」「中小企業経営・中小企業政策」です。


資格取得には、経営に関する総合的な知識が必要な訳です。


起業を目指す方々に中小企業診断士になれとまでは言いませんが、必要最低限のこれらの知識が必要になります。すなわち経営知識とは「経済のこと」「財務・会計のこと」「経営の理論」「運営に関すること」「法律に関すること」「ITに関すること」「行政が行っている支援施策等」を指します。

 

2.経営知識の習得方法

これらの経営知識はどこで学べばいいのでしょうか?


先ほどの話から「それなら中小企業診断士を目指して勉強するぞ!」と意気込んで、資格取得の受験校に通うことやテキストを買ってみるのもいいかもしれません。しかし、「いやいや、もっと手っ取り早く経営知識を習得したい」という方が大半でしょう。

 

そんな方にお勧めしたいのが、当センターでも定期的に開催している創業セミナーに参加することです。
同セミナーでは、起業に必要な経営知識全般を学ぶことが出来ます。


また、事業計画書の策定が可能になります。
同セミナーに参加し、ご自分に不足している分野を認識したうえで、その知識を補充していく学習法が良いと思います。


くどいようですが、経営には最低限の経営知識が必要ですし、起業に際しては、事業計画書が必須です。これらが無いままに起業してしまうと失敗のリスクが高くなりますし、起業後はこれらの知識習得や事業計画書策定にかけられる時間はあまり取れないでしょう。


ですから、ぜひ起業前にこれらの準備をしていただければと思います。

 

 



第2回 起業にはいくらかかる?

前回、起業には『お金』と『経営知識・ノウハウ』が必要であるとお伝えしました。

今回は、そのうちの必要な『お金』について、2014年中小企業白書の統計データを基に解説します。


<今回のテーマ>

1.起業に掛かった費用
しっかりとした想いやビジョンを描いていたとしても、それを実現するためには資金が必要です。

ではどのくらいの資金を準備すれば良いのでしょうか。

2.起業に必要な自己資金
資金調達方法には、自己資金、親・兄弟等からの借入、金融機関からの借入などがあります。

そのうちの必要な自己資金について、解説します。

 



1.起業に掛かった費用

起業家は、起業時にどのくらいの資金が必要だったのでしょうか。2014年中小企業白書から起業に掛かった費用を見ていきます。

 

 

全体として、0万円~50万円以下と200万円~500万円以下を選択する割合が高く、それぞれ約2割存在しています。

女性や若者、シニアの特徴を見ると、女性や若者においては、比較的低額費用で開業する傾向があり、一方でシニアは高額な費用での起業も多く、1,000万円以上の費用をかけて開業する割合が2割弱存在します。

 

日本政策金融公庫の「2016年版新規開業白書」によると、『開業費用の平均値は1,205万円、中央値は720万円、500万円未満が32.8%、500万円以上1,000万円未満が31.6%、1,000万円以上~2,000万円未満が21.8%』となっています。

 

※中央値

データを小さい順に並べたとき中央に位置する値


起業家の年齢や業種にもよりますが、起業には多かれ少なかれ資金が必要であることが見て取れます。

 

 

2.起業に必要な自己資金

 

同じく2014年中小企業白書から『自己資金の持ち出しについて見ると、起業に掛かった費用と同様の傾向があり、女性や若者は低額である一方で、シニアが最も高い。退職金や長年の貯蓄を原資に起業をする者が多いことが推測される』としています。

 

日本政策金融公庫の「2016年度起業と起業意識に関する調査」によると

『起業費用に占める自己資金割合が「100%(すべて自己資金)」である割合が75.1%を占める。この割合を起業費用別にみると、起業費用が100万円未満の起業家では91.0%にのぼるが、起業費用が高額になるについて低くなる。』としています。

 

当然ですが、起業費用が高額の場合、全額自己資金というわけにはいかず、金融機関からの借入で資金調達することが考えられます。その際の借入額の目安は、自己資金額の1.5倍から2倍までとされています。
例えば、1,000万円を借りようと思えば、最低でも500万円の自己資金を用意する必要があるわけです。

 

起業を思い立ったら、少し遊びを控えて、できるだけお金を貯める努力をしてくださいね。



第1回 起業の現状を読み解く

毎年、中小企業庁から発行されている中小企業白書のデータから、起業の現状を読み解きます。


<今回のテーマ>

1.起業は甘くない?
開廃業率や企業の生存率を見ていきます

2.起業家も高齢化?!
起業家の属性を最新の統計データで見ていきます
3.起業に必要なモノ
アンケート調査結果から、起業に必要なモノを読み解きます



1.起業は甘くない?

2016年度中小企業白書によると、開業数が廃業数を上回った業種は医療・福祉(+0.5万者)のみとなっており、他の業種は全て廃業が開業を上回っています。

 

また、大くくりした3業種でみると、同程度、廃業が開業を上回っています。

 

製造業その他(計▲5.2万者)

商業(計▲6.2万者)

サービス業(計▲5.7万者)

 

※医療・福祉はサービス業に含む

 

 

せっかく起業したからには、誰もがその事業を継続させたいと思うでしょう。

 

しかし現実は厳しく、起業して3年後に生き残れるのは4割、10年後には1割しか生き残れないと言われています。それが中小企業白書の「開業率よりも廃業率の方が多い」所以でしょう。

2.起業家も高齢化?!

2017年度中小企業白書の起業家の年齢別構成を男女別に見ると、起業家全体に占める60歳以上の割合は、1979年以降男女共に増加傾向であることが分かります。

 

 

若者の起業家に比べシニア層は社会経験、自己資金などの面で、有利であることを理由に挙げています。


また、起業家の平均年齢も男女共に年々上昇しています。

 

3.起業家に必要なモノ

2017年度中小企業白書では、起業準備者が起業できない理由のアンケート結果を掲載しています。

 

これを見てみると、いずれの年代についても『資金調達ができていない』の割合が最も多く、次いで『事業に必要な専門知識、経営に関する知識・ノウハウの不足』の順になっています。


つまり、裏を返せば、事業化のために必要な『お金』と『経営知識・ノウハウ』があれば起業できる可能性が高いと言えるでしょう。『言うは易く行うは難し』ですね。お金もノウハウもすぐに貯まるモノではありませんしね。

 

しかし少し厳しい言い方になりますが、お金もノウハウも無ければ、起業できません。もしくは起業できたとしてもすぐに廃業してしまいます。


データからも分かる通り、起業はそんなに甘くないのです。
起業を思い立ったら、まずは『お金』と『ノウハウ』を貯める努力をしてくださいね。